三木教授は、当研究室の代表である植田の「AI研究をしたい!」との希望に許可を出してくださりました。そこが端緒となり様々なAI研究が生まれています。そんな三木教授に、研究を許可した経緯や同研究の実績、可能性についてうかがいました。
大阪市立大学大学院医学研究科 放射線診断学・IVR学 教授三木幸雄
「今すぐAI研究を始めたい!」に異例のGOサイン。
植田先生は初期研修後に放射線科を専門として選ばれました。当初から積極的な放射線科医でした。当科では一般的に数年間は市中病院(大学病院以外の病院)でトレーニングを積んでから大学院で研究を始めるものですが、入局から数ヶ月後には「AIの研究をしたい!」と熱心に提案してきたのです。
普通はこのような話がくると「まずは臨床をしなさい。研究は医者として一人前になってからです。」とアドバイスします。しばらく臨床経験を積むことこそ、価値のある研究を成し遂げる礎になるからです。
しかし、植田先生は本気度が違いました。実際に自分でマンモグラフィの教科書を切り取って作成したAIを持ってきて、プレゼンされたのが印象的でした。確かに、AIの研究は早く始めないと難しい領域であり、大きな可能性がある分野であることが分かりました。そこで、研究を始めるにあたり厳しい条件を3つ提示しました。その条件に植田先生は「分かりました!」と即答。入局の翌年から大学院で研究を始めることが決まりました。
研修医がAI研究に挑むために課した3条件とは?
①自分で論文を書くこと
大学院生の研究では、先輩医師の指導を受けながら論文を書くノウハウを身につけていくのが一般的です。しかし「医学×工学」の論文を指導できる医師はいないので指導することができません。指導教員なしで論文を書くことが1つ目の条件でした。
②放射線科医として臨床をすること
臨床スキルの低い医師は、研究ができたとしても半人前です。植田先生の将来のためにも臨床経験が必要なので、研究と並行して臨床をすることを条件にしました。基本的には当科の他の放射線科医と同様に臨床をしてもらいました。
③研究アイデアを自分で出すこと
研究では新規性が重要ですが、その新規性のあるアイデアを思いつくことこそが難しいのです。何かを思いついても大抵は先に研究している人がいることがほとんどです。通常であれば経験の少ない医師にとってそのような新規性のあるアイデア出しは困難なため、最初の研究テーマは上司に与えられることが多いものです。しかしこれも当科でもAI研究は初めての試みでしたので、自分で考えることを条件としました。
医療分野の中でも放射線科はAIとの親和性が高い分野だと思います。
研究の実績、受賞歴、製品化歴なども充分
同論文の内容は、読影で見落としを完全に防ぐことが難しい「くも膜下出血の原因である脳動脈瘤」を探す技術をAIで高い精度で検出に成功し、放射線科医の読影を補助することでより高い精度で脳動脈瘤を検出できるというものでした。これは後にPMDAでディープラーニングを用いた医療機器として日本初認証も取得しました。
研究が完成したとき、私はインパクトのある研究だと思ったので、放射線領域のトップ雑誌「Radiology」への提出をすすめました。すると掲載されただけでなく編集部からのコメントもついたのです。ジャーナル掲載論文は購読料を払うユーザーだけがアクセスできるものですが、一部の選ばれた論文だけは世のためにオープンアクセスとなります。この論文はオープンアクセスとなりました。あれは良かったですね。
その他にも植田先生は下記のように十分な実績も持っています。
北米放射線学会The Best of Radiology
大阪市立大学医学部長賞
日本医学放射線学会優秀論文賞
日本初のディープラーニングを使用した医療機器認証取得
特に、自分自身で研究した内容を実際に医療機器認証にまでこぎつけた研究者は少ないのではないでしょうか。
人生初の論文が「Radiology」に掲載
AIは研究テーマの宝庫。医療の発展に貢献できる
最近は、多くの分野で新しい研究アイデアを思いつくのがますます難しくなっています。放射線科はCTやMRIなどの新しい技術の研究が主な論文テーマですが、最近は掛け合わせのアイデアが出にくくなっています。
一方、植田先生の研究室はアイデアの宝庫です。AI自体がこれから発展する分野というだけではありません。先生はAIに関しては工学者並に精通していますし、医者としてクリニカルクエスチョンも持っています。ゆえにどこにもない医療とAIのアイデアを誰よりも高いレベルで扱えます。
現在(インタビュー時)も未公開の素晴らしい論文が複数投稿中です。どれもすごく面白いテーマですよ。ここに来れば医療の発展に関わる研究ができるでしょう。
ハイインパクトジャーナルを目指してほしい
まず職場は楽しいと思います。植田先生はコミュニケーション能力が高いので一緒に働きやすいです。研究テーマを院生とシェアするなど後輩の育成にも大変熱心です。
次に、ここはPhDの方にとっては良い指導者、豊富なデータ、有用なアイデアの揃った最高の研究環境です。AIの研究には質の高い数千単位の症例が必要です。正確な診断がついた大学病院の症例画像をもとに研究ができます。ハイインパクトジャーナルも目指せますよ。